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接続詞「しかし」の意味と用法  (1)

 (2010-02-19 20:37)
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はじめに

 

接続詞「しかし」の意味については諸説があっていまだに定説がないようである。そこで本稿は、「しかし」でつながれた二文(「しかし」連文と呼ぶ)がどのような思考過程をたどって表現され理解されるのか(「表現過程」と呼ぶ)ということから、接続詞「しかし」の意味に迫ってみようと思う。

接続詞「しかし」には、文と文とを接合する場合と段落と段落とを接続する場合とがあるが、本稿では、前者のみを研究対象とした。

なお、本稿は、接続詞「しかし」と中国語の連詞「但是」を対照研究するための基礎研究でもある。

 

1、「しかし」連文の表現過程

 

「しかし」連文は、表現過程の違いで、大きく二種に分けることができる。具体例で説明しよう。

  例文一 日本語の文法は難しい。しかし、発音は難しくない。

この例文一では、前件文に「難しい」、後件文に「難しくない」と表現されていて、〈文法は難しい。しかし、発音は難しくない〉といういわゆる逆説の関係を理解することができる。これを「型連文」と呼ぶことにする。ところが、次の例文二は、型連文のようにはいかない。

  例文二 彼は何度も失敗した。しかし、少しも落胆はしない。

例文二の前件文「彼は何度も失敗した」と後件文「少しも落胆はしない」からはストレートに逆説の関係を理解できない。それにもかかわらず、われわれが逆説の関係を理解できるのはなぜであろうか。それは「彼は何度も失敗した」という文から「彼は落胆するはずだ」という文の意味が引き出してくるからである。「彼は落胆するはずだ」という文の意味が引き出されると〈彼は落胆するはずだ。しかし、彼は落胆はしない〉という逆説の関係が成立する連文として理解できることになるのである。話し手も同様な過程を経て、例文二を表現しているものと考えられる。話し手の場合と聞き手の場合との違いは、話し手が前件文の時点で含意を引き出しているのに対して、聞き手は接続詞「しかし」と後件文が表現された時点になってはじめて含意の引出しができるという時点の違いに過ぎない。話し手も聞き手も結局同じ表現過程をたどることになる。このように前件文と後件文から文の意味を引き出すことを「引き出し」、また引き出した文の意味を「含意」と呼ぶことにする。引き出しが行われる「しかし」連文を「型連文」と呼ぶことにする。「しかし」連文には、型連文と型連文との二種がある。

 型連文は、どこから含意を引き出すかで、さらに三つの型に分けることができる。前件文から含意を引き出すもの、後件文から含意を引き出すもの、前件文と後件文の両方から含意を引き出すもの、の三つである。例文を挙げながら説明しよう。先の例文二は、前件文から含意を引き出している例である。これを「―1型連文」と呼ぶ。

  例文三 昨日は天気がわるかった。しかし、今日は晴れている。

例文三では、後件文「今日は晴れている」から「天気がいい」という含意を引き出すことによって、前件文の「天気がわるかった」と逆接の関係が成立する。このように後件文から含意を引き出す「しかし」連文を「-2型連文」と呼ぶ。

  例文四 彼は頭がいい。しかし、欠席が多い。

例文四の前件文「彼は頭がいい」と後件文「欠席が多い」とはストレートには逆接の関係にはならない。そこで含意を引き出すことになる。しかし、前件文「彼は頭がいい」から「彼はよい点を持っている」という含意を引き出しただけでは〈彼はよい点を持っている。しかし、欠席が多い〉となっただけでは、まだ逆接の関係が成立するまでには至っていない。さらに、後件文「欠席が多い」からも含意を引き出す必要が生じてくる。後件文「欠席が多い」から「彼はわるい点を持っている」という含意を引き出す。そこではじめて〈よい点を持っている。しかし、わるい点も持っている〉という逆接の関係が成立することになるのである。このように、前件文と後件文の両方から含意を引き出す「しかし」連文を「-3型連文」と呼ぶ。

 型連文は、―1型連文・-2型連文・―3型連文の三つの型に分類することができる。

 

2条件づけの「しかし」連文

 

  例文五 明日運動会があります。しかし、雨ならありません。

例文五は、〈運動会があります。しかし、運動会がありません。〉とストレートに理解でき、含意を引き出す必要がない型連文である。しかし〈運動会があります。しかし運動会がありません。〉という逆接の関係が成立するのは「雨」という条件が成立した場合だけである。「雨」でないときには、逆接の関係は成立しない。このように、条件をつけて限定して逆接を成り立たせる表現過程を持つ「しかし」連文を「条件づけの『しかし』連文」と呼ぶことにする。「条件なしの『しかし』連文」を「A型連文」と呼ぶなら、この「条件づけの『しかし』連文は「B型連文」と呼ぶことになる。

 条件づけは例文五のように後件文につけられる型のほかに、前件文につけられる、前件文と後件文の両方につけられる、の二つの型があり、B型連文は三つの型に分けられる。具体例を挙げながら検討してみよう。

  例文六 体の都合がよければ山のぼりに行きます。しかし、泳ぎには行きません。

例文六も〈に行きます。しかし、に行きません。〉で型連文だが、条件は、例文五と違って前件文につけられている。「体の都合がよい」という条件が成立するときだけ「山のぼりに行きます」が成り立つのであって、体の都合がつかなければ、逆接の関係は崩れる。このような型連文を、「Ba型連文」と呼ぶと、例文五のような後件文に条件付けがある型連文を「Bb型連文」と呼ぶことができる。

  例文七 お金があれば、家を建てる。しかし、土地が高ければ、建てない。

例文七も型連文である。しかし逆接の関係が成り立つのは、前件文では「お金がある」とき、後件文では「土地が高い」ときで、これらの条件のいずれが失われても、この逆接の関係は崩れることになる。このような条件づけの「しかし」連文を「Bc型連文」と呼ぶ。

 したがって、型連文は、A型連文・Ba型連文・Bb型連文・Bc型連文の四つの型に分けられることになる。

 この条件つきは型連文の「しかし」連文についてもみられる。

 ―1型連文から検討していこう。

  例文八 猛勉強をすると、とても疲れる。しかし、食事はいつも楽しい。

例文八の前件文から「楽しくない」という含意を引き出すことによって逆接が成立する―1型連文の例文である。しかし、それも「猛勉強をする」という条件が前件文につけられている。猛勉強をしなければ疲れていなくて、当然食事は楽しいのである。この逆接の関係は猛勉強をしたときだけにいえることである。したがって含意は条件づけされた前件文から引き出されたものということになる。これを「―1―B型連文」と呼ぶならば、条件づけのない―1型連文(例文二)を「―1-A型連文」と呼ぶことができる。

  例文九 私は昼食を食堂でとります。しかし、お客さんが来られたら家でとります。

例文九の前件文から引き出す含意は「昼食を家でとらない」である。この含意が引き出されたとき、逆接の関係が成立するのであるが、それは「お客さんがこられたら」という条件つきである。例文九は、例文八と同じ―1―B型連文であるが、条件が前件文ではなく、後件文につけられているところが異なる。条件が前件文につけられている―1―B型連文(例文八)を「―1―Ba型連文」と呼び、条件が後件文につけられている―1―B型連文(例文九)を「―1―Bb型連文」と呼ぶ。

  例文十 当ホテルは春ですとお客さんがいっぱいおいでになります。しかし、冬ならかなりお部屋があいています。

例文十は、前件文から「部屋が空いていない」の含意を引き出すことによって成立する型―1型連文である。しかし、例文十では、「春ですと」「冬なら」と、前件文と後件文のそれぞれに条件がつけ

られている。このように、条件が前件文と後件文の両方につけられている―1―B型連文を「―1―Bc型連文」と呼ぶ。

 次に、―2型連文の条件づけについて考察してみよう。先の例文二のように条件づけのないものがある。これを、「―2―A型連文」と呼び、これから考察する、条件づけのあるものを「―2―B型連文」と呼ぶ。

  例文十一 私がいるならお世話しますが、しかし、明日から出張に行かなければなりません。

例文十一は、後件文から「私はお世話しません」という含意を引き出すことによって成立する―2型連文である。そして前件文に「私がいるなら」という条件がつけられている。このように、前件文に

条件づけがある―2―B型連文を「―2―Ba型連文」と呼ぶ。

  例文十二 私は旅行に行く。しかし、雨なら家で寝ている。

例文十二は、後件文から「私は旅行に行かない」という含意を引き出すことによって前後件文の逆接の関係が成立する―2連文である。後件文に「雨なら」という条件がつけられている。このように、後件文に条件づけがある―2―B型連文を「―2―Bb型連文」と呼ぶ。

  例文十三 波が穏やかなら船は出港する。しかし、霧が出たら船は港で待機します。

例文十三は、後件文から「船は出港しない」という含意を引き出す型―2連文である。そして条件が「波が穏やかなら」「霧が出たら」と前件文と後件文の両方につけられている。このように、前件文と後件文の両方に条件づけがある―2―B型連文を「―2―Bc型連文」と呼ぶ。

 次に、―3型連文の条件づけについて考察してみよう。先の例文四のように条件づけのないものがある。これを、―3―A型連文」と呼び、これから考察する、条件づけのあるものを「―3―B型連文」と呼ぶ。

  例文十四 私の部屋は冬になると寒いです。しかし、静かです。

例文十四は、前件文からは「私の部屋はわるい」、後件文からは「私の部屋はいい」の含意がそれぞれ引き出されて逆接の関係が成立する―3型連文である。条件は「冬になると」で、前件文につけられていて、後件文はいつも静かで、つけられていない。このように、前件文に条件づけがある―3―B型連文を「―3―Ba型連文」と呼ぶ。

  例文十五 あの本を買うつもりだ。しかし、お金がなければあきらめる。

例文十五は、前件文からは「本を買う」、後件文からは「本を買わない」という含意が引き出される―3型連文である。「お金がなければ」の条件が後件につく。このように、後件文に条件づけがある―3―B型連文を「―3―Bb型連文」と呼ぶ。

  例文十六 明日一緒に行くなら学校の正門にお集まりください。しかし、七時になると発車します。

例文十六は、前件文からは「車が待っている」、後件文からは「車が待たない」という含意が引き出される―3型連文である。そして「一緒に行くなら」「七時になると」という条件が、前件、後件にそれぞれついてくる。このように、前件文と後件文の両方に条件づけがある「―3―B型連文」を「―3―Bc型連文」と呼ぶ。

 

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